t_kahi’s blog

KNIMEやCellProfiler、創薬に関する記事と,日々のメモです

Target-focused phenotypic screeningについて

こんにちは,@PKです.

こちらは,創薬アドベントカレンダー(Wet)21日目の記事です.
創薬 (wet) Advent Calendar 2019 - Adventar

この記事では,「Target-focused phenotype screening」について,紹介します.

Target-based screening & Phenotypic screening

さて,代表的な創薬スクリーニング手法として以下の2つが知られています

  • Target-based screening
  • Phenotypic screening

以下にそれぞれのスクリーニングの概要を模式図で示しています.

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Target-based screeningでは,まず疾患に関わる標的分子を見つけてターゲットとしての妥当性を評価(ターゲットバリデーション)します. この部分については,先日書いたアドベンドカレンダーの記事がこのターゲットバリデーションのステージになります.
"Right Target"とは何か;AstraZenecaの5R frameworkから考えるターゲットバリデーション - t_kahi’s blog
また,こちらの記事でも触れているようにgenetic evidenceもとても重要な考え方です.
Genetic evidenceに基づく創薬とは?│Drywetty's Omics Blog
その後,標的分子に作用する化合物をスクリーニングによって取得し,さらに活性やその他パラメーターを磨いていきます.

Phenotypic screeningは,まず疾患の表現型を模倣した細胞評価系を構築します.
そして,その評価系の表現型(=疾患モデル)を正常に戻す化合物を見出します.Phenotype screeningにおいて表現型を捉える評価技術として有用なのが,High Content Analysisです(もちろん他にもたくさんあります!).
【HCS】High Content ScreeningとCellProfilerについて - t_kahi’s blog

Phenotype screeningで初期にヒットした段階では,どの標的分子へ作用しているか不明なので,ケミカルバイオロジーを駆使してターゲット同定を行っていきます.

どちらの手法も非常に強力ですが,Target-based screening に関しては,高次の評価系(より疾患に近い表現型の評価系)に持っていくと薬効を示さない可能性があること, Phenotypic screeningについては,ターゲット同定の難しさなどが欠点です.

「Target-based screening」と「Phenotypic screening」について簡単に紹介しましたが,この2つの手法と,それぞれの利点・欠点については,下記の記事がとてもわかりやすいので,是非参考にしてください.
luckprepopp.com

Target-focused phenotypic screeningとは

Target-focused phenotypic screeningは,Target-based screeningとPhenotypic screeningを両方兼ね備えたスクリーニングカスケードです[1]
以下にその概要を示します.

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Target-focused phenotypic screeningでは,まず,疾患を模倣した評価系を構築します.続いて,その評価系を使って,疾患モデルに対して効果を示す標的分子を見つけます.
このときに,ランダムライブラリーではなくターゲットと疾患が紐ついているsiRNAライブラリーやCRISPRライブラリー,薬理活性化合物ライブラリーなどを用いるのがポイントです.この過程によって,phenotypic screeningの欠点であるターゲット同定のハードルが下がります.
今は,このようなターゲット同定のためのライブラリーも沢山市販されていますので,目的に応じて選択するのが良いでしょう.

そこで見出した標的分子に対して,Target-based screeningで標的に作用する化合物の活性を上げていきます.

個人的には,タンパク質や化合物を視る技術のレベルが大幅に上がっているので,Target-based screeningが可能であれば,より創薬が進めやすいのでは無いかと思います.

もちろん,Target-focused phenotypic screeningも万能ではありません.
一番の難所は,疾患モデルの評価系構築の部分です.安易な疾患モデルではヒットする標的分子も既知のものばかりになる可能性もあります.疾患モデルをどの程度反映しているのかも難しい点です.
また,ターゲット同定の部分にも課題はあります.siRNAライブラリーや薬理活性化合物ライブラリーを使ってもターゲット同定は非常に難しいです(本当に…).

とはいえ,Target-focused phenotypic screeningは, phenotypic screeningの良い点(疾患モデルの評価系で効果を示す)とarget-based screeningの良い点(創薬のスピードがはやい)を兼ね備えているので優秀なスクリーニング技術だと自分は考えています.

参考文献

[1] Heilker, R., Lessel, U. and Bischoff, D. (2019). The power of combining phenotypic and target-focused drug discovery. Drug Discovery Today, 24(2), pp.526-532.