t_kahi’s blog

KNIMEやCellProfiler、創薬に関する記事と,日々のメモです

非臨床段階における低分子創薬の流れについて(基礎)

こんばんは,@PKです.

はじめに

今回のブログでは,「Principles of early drug discovery」という文献を参考にしながら,非臨床の低分子創薬の一般的な流れを紹介します.
2011年と少し古い総説ですが,低分子薬の一般的な標的ベースのスクリーニングの流れについて,非常にきれいにまとまっております.製薬会社の方なら読んだことがある方も多いと思います(被引用回数も現時点で1000を超えており,今でも引用され続けています).

Target validation

ターゲットバリデーション
創薬のターゲット(標的)として適当な分子を選定すること.cDNAマイクロアレイやプロテインチップなどを用いて,疾患時に重要な働きをしている分子を同定することが可能である.
ターゲットバリデーション:バイオキーワード集|実験医学online:羊土社

ターゲットバリデーションについてはこれまで何度か紹介しておりますので,詳細は割愛します.
"Right Target"とは何か;AstraZenecaの5R frameworkから考えるターゲットバリデーション - t_kahi’s blog
ターゲットバリデーションについて - t_kahi’s blog

また,genetic evidenceもとても重要な考え方ですので,参考になる記事を以下に示します.
Genetic evidenceに基づく創薬とは?│Drywetty's Omics Blog

Hit discovery process

続いてヒット化合物取得について紹介します.
ヒット化合物の定義は,プロジェクトによって異なりますが,参考にしている文献では,標的に対して再現よく活性を示す化合物=ヒット化合物と仮定しています.
ヒット化合物を取得するためにスクリーニングを行いますが,以下に示すようにいくつかの手法があります.

  • High throughput screening
    • 大量の化合物からスクリーニングによってヒット化合物を見出す手法
  • Focused screening
  • Fragment screening
    • 結晶構造解析などで標的分子と結合するフラグメント化合物を見出し,そこから活性を上げていく
  • Structure based drug design
    • 構造情報を用いて化合物デザインを行う
  • virtual screening
    • 標的の構造情報とバーチャル低分子ライブラリーのドッキングシミュレーションによって,in silicoで結合する化合物を見出す
  • etc.

この記事ではHigh throughput screeningについて取り上げていきます.他の手法については,参考文献やその他総説で勉強したいと思います.
また上記以外にもいくつか手法がありますので,標的に合った創薬手法を選択していきます.

Assay development

ターゲットバリデーションに続いて評価系構築についてです.
標的ベースの評価系構築の基礎は下記ブログが参考になります.
標的ベースと表現型スクリーニング (Phenotypic screening): 創薬研究の2つの流れ | Luck Is What Happens When Preparation Meets Opportunity

また,一般的な評価系構築のポイントとして下記のようなものに気をつけます

  • 標的との関連性
    • 可能であれば既知リガンド(ポジコン)などで評価系の妥当性検証を行う
    • (とはいえFirst-in-classだとポジコンも無いことがありますが…)
  • 評価系の再現性
    • プレート間差,日間差…
  • アッセイコスト
  • アッセイクオリティ
  • 化合物による影響
    • 化合物の自家蛍光
    • DMSO耐性
      • 一般的には,細胞アッセイでは1%以下,酵素アッセイなら10%以下

HTSでは化合物濃度は1-10uMで処理することが多いようです(評価系や標的への活性によります). 上記の評価系構築後に,実際に化合物スクリーニングを行っていきます.

Defining a hit series

スクリーニング結果から,ヒットを選択します.
LipinskiのRule of Five,分子量(400以下)やcLogP(4以下)などいくつか薬として妥当な値の化合物を選択します.
また,よくHTSでヒットしてしまう化合物(Frequent hitter)を除いたり,1次ヒット化合物を構造ごとにクラスタリングして,ヒット化合物の選択を行います.また,HTSの化合物はDMSO溶液で保管してあることから,化合物が壊れている可能性があるので,必要に応じて再合成・再試験などをする必要があります.
ヒット化合物の濃度依存性も確認します.濃度依存性が無く,活性が0か100の化合物はOn-target以外の効果が懸念されます.
また,濃度依存性試験における用量反応曲線 (dose-response curve) から,EC50やIC50値を算出することができます. この値を活性値としながら,活性値を上げ,選択性や毒性との乖離を取っていきます.

1次スクリーニングを通過した化合物はその後,2次評価系へと進みます.
ここでは,1次スクリーニングほどのスループットは必要ありませんが,標的分子の機能をより詳細に評価する系(Functional assay)や,カウンター評価系などが該当します.
最初のヒット化合物は一般的に100nM-5uMの活性であり,ここから化合物の活性を上げていきます.
また,化合物の活性だけでは無く,ADMETのパラメーターも重要です.

以下に一般的なADMET評価系と指標を示します.

  • Aqueous solubility : >100 uM
    • 化合物の溶解度試験
  • Log D7.4 : 0–3
    • 膜透過性の指標
  • Microsomal stability Clint : <30 uL·min-1·mg-1 protein
    • ヒト肝ミクロソームを使った代謝安定性評価
  • CYP450 inhibition : >10 uM
  • Caco-2 permeability Papp : >1 X 10-6 cm-1
    • ヒト結腸癌由来細胞 Caco-2 を用いた腸管吸収の評価
  • MDR1-MDCK permeability Papp : >1 X 10-6 cm-1
  • Hep G2 hepatotoxicity : No effect at 50 X IC50 or EC50
    • ヒトHepG2細胞を使った肝臓の毒性評価

このような評価系を用いて,化合物のプロファイル(活性・選択性・毒性)を磨いていきます.

Hit-to-lead & Lead optimization phase

Hit-to-leadフェーズでは,PKプロパティを保ったままヒット化合物の活性・選択性を上げていきます.
この段階では構造情報を活用して化合物の活性を上げることが重要となります. また,非臨床レベルでは疾患モデル動物を用いた試験を行うため,ヒト以外の動物への種差(一般的にヒトと同等か10倍以内程度)を評価することが必要です.
化合物のi.v投与で血中での半減期が60min以上だと一般的に安定な化合物だと考えられます.
化合物のin vivo薬効や動態を評価する必要があり,PK/PDモデルを活用した評価していきます.
また,Lead optimizationではhERGとの乖離やCaco-2細胞の膜透過性など各種評価を行い,Preclinical candidateのクライテリアを満たすように化合物を磨いていきます(変異原性試験による毒性評価やIrwin’s testなど行動評価試験なども行います).

最後に

「Principles of early drug discovery」の内容をおおまかに紹介(特にHit取得の部分を)しました.詳細が知りたい方は是非本論文を読んでみてください.
この文献ではターゲットベースの低分子創薬についての概要を示していますが,最近は他のモダリティや創薬手法も非常に多くあります. また,創薬のストラテジーは会社ごとにも大きく異なると思います.
まだまだ創薬の経験が浅い自分は,既存のやり方の概要を抑えておきつつ,様々な創薬手法勉強して実践を積んでいきます.

reference

Hughes, J., Rees, S., Kalindjian, S. and Philpott, K. (2011). Principles of early drug discovery. British Journal of Pharmacology, 162(6), pp.1239-1249.