こんにちは、@PKです.
創薬 Advent Calendar 2018の7日目の記事です.
今回は,「ターゲットバリデーション」という創薬プロセスについて,私がどのように考えているのかをご紹介したいと思います.
「ターゲットバリデーション」の意味を調べると以下のように出てきます.
ターゲットバリデーション
創薬のターゲット(標的)として適当な分子を選定すること.cDNAマイクロアレイやプロテインチップなどを用いて,疾患時に重要な働きをしている分子を同定することが可能である.
ターゲットバリデーション:バイオキーワード集|実験医学online:羊土社
このターゲットバリデーションですが,ターゲットベースのスクリーニングにおいて,そのプロジェクトの成功確率・速度を決める非常に重要な部分です.
標的分子を決める部分は,主に薬理部門の方々が疾患のメカニズムなどを考えながら,治療標的として妥当だと考えられる分子を選びます.
「ある疾患に対して〇〇という分子が治療に有効だということがわかりました!」というニュースをよく見かけますが,それら全てが薬になることはありません.
例えばopen targetという疾患にかかわる分子情報が載っているデータベースを使って,migraine(片頭痛)をキーワードに検索をかけてみましょう.
https://www.targetvalidation.org/disease/EFO_0003821/associations
migraineにかかわる分子のリストがザーッとでてきます.
スコアが高いほど疾患との関連が強いですが,どんなにスコアが高い(関連性が高い)分子を標的としても薬が薬効を示さないことは多々あります.
そこで薬理研究者は,疾患に対してどのような分子を標的にすべきか,文献情報や,実験を通じて疾患の治療標的として妥当な分子であることを示していきます.
これがターゲットバリデーションです.
分子標的を決めるうえで,重要なポイントは3つあると私は考えています.
私自身が創薬標的を探すときはこのポイントを意識しながら情報を収集しています.
以下に,その3つのポイントと理由について述べたいと思います.
1. 疾患の治療として,その標的分子の薬効メカニズムの理論構築に問題はないか
創薬には本当に長い年月とコストがかかります.
薬理学的にその分子を標的とする十分な根拠がないのであれば,長い創薬活動を続けていく価値があるかどうか判断できないですし,治療薬を渇望している患者さんに失礼だと私は考えています.
この理論構築には,「薬効」という軸と「毒性」という軸があります.
生体内の分子にはもともと生体内で重要な役割を担っており,そのバランスが崩れることで病気の状態になります.
薬はそういった疾患に関与している異常な分子の働きを制御することで,病気の治癒につながります.
しかし,疾患の治療に関わる部分以外で,その分子の働きまで抑えてしまうと「毒性」という副作用となって表れてきます.
これをその分子標的自身に作用することによる毒性ということでon-target毒性とも言われております.(逆に他の分子との相互作用によって生じる化合物自身の毒性の場合は,off-target毒性と呼ばれます.)
全く毒性を引き起こさない薬など基本的にはありません.
常に薬は「薬効」=ベネフィットと「毒性」=リスクのバランスが重要になります.
「薬効」>「毒性」となるときに初めて,その分子標的が妥当だと判断できます.
また,毒性に関しては疾患ごとに違うため注意が必要です,例えば生き死に直結する疾患(例えばがん)の場合は毒性リスクは許容されますが,QOL改善薬では同じ副作用レベルは許容されないといったことが起きます.
どのような副作用が許容されるのか,標的としている疾患の患者さんのニーズを分析することは非常に重要だと考えます.
2. 標的分子に対して適切なスクリーニングカスケードを設定できるか
ここは,学生の時には気づかなかったモノの見方でした
いくらある分子が疾患に重要であっても,スクリーニングカスケードが立てられないと創薬標的にはなりません.
スクリーニングカスケードとは,分子標的に対して「特異的」に,「親和性が強い」化合物を取得することができる道筋,ということだと認識しています.
ここで評価系やモダリティという概念が非常に重要になっていきます. どのようなモダリティで,どのような評価系でスクリーニングをすれば目的の化合物が取得できるのかを各専門家がチームとなってこれらの課題を解決することで,スクリーニングカスケードの道筋が見えてきます.
ちなみに,スクリーニングに用いる手法は日進月歩で進化しています.
少し前までは創薬標的として難しいと考えられてきたものも,技術の進歩で創薬標的として実現可能ということが本当に多くあります.
スクリーニングを生業とするならば,これまでの手法と今の最先端をきちんと理解しておくことは必要です.
3. 誰よりも早く標的分子の阻害剤が取れる根拠は何か
私は,自分がこれは有望だ!と思う創薬標的は,だいたい世界中の他に優秀な誰かが既に始めているか,既に見切りをつけていると思っています.
逆に自社独自の手法で自分たちだけが取り組める場合や,自分たちしか持っていないデータをもとに選んだ分子標的には価値があり,その点が不安定な状況で創薬活動を行うのは失敗のリスクが跳ね上がると考えています.
言い方と変えると,このプロジェクトには,自分たちでしか解決できないイシューがある,ということが説明できるかどうかだと理解しています.
この「イシューの見極め」を行うにあたっては,自社の強み・弱みをしっかりと理解することと,どのように仮説を構築して検証していくかの道筋を立てる能力が重要だと思っています.
以上が,ターゲットバリデーションというプロセスにおける私の考え方です.
私の人生の目標は新薬創出なので,少しでも新薬創出に貢献して患者さんアンメットメディカルニーズを満たすことができるよう,今後も努力していきます.