t_kahi’s blog

KNIMEやCellProfiler、創薬に関する記事と,日々のメモです

キナーゼ活性評価におけるAssay Wallについて

こんばんは,@PKです.

自分は,細胞評価系を専門にしておりますが,以前キナーゼや酵素評価系を専門にしている同僚と話した時にキナーゼアッセイのAssay Wallの話を伺い,とても勉強になったのでメモしておきます.

Assay Wall(アッセイウォール)という単語を調べてもあまり出てこないのですが…以下の読み物で紹介されていましたので紹介します.

Hit Finding and Profiling for Protein Kinases: Assay Development and Screening, Libraries
Step 2: Assay Wall and Optimization of the Reaction Buffer

ここでは,キナーゼ濃度が測定できるIC50値を制限してしまうことから,できる限りキナーゼ濃度は低く抑えなければならない,と記述してあります.

具体的にはキナーゼ濃度の半分がIC50値の限界となっており,例えばキナーゼの濃度が10nMの場合は,たとえ化合物の真のIC50値が0.01nMであっても,測定できるIC50値は5nMとなってしまいます.

なぜ,キナーゼ濃度半分になってしまうのか,の説明は以下の記事がわかりやすかったです.
http://www.biokin.com/slides/1305-arqule.pdf

このキナーゼ濃度によって,見かけのIC50値が高くなってしまう現象をAssay Wall,アッセイウォールと呼ぶそうです.

言われてみると当たり前に感じる内容で,キナーゼ評価系のIC50値はキナーゼの活性を50%を阻害する化合物の濃度だとすれば,キナーゼの濃度の半分より下回るはずが無いことがわかります.感覚的にとても腑に落ちますね.

勿論キナーゼ評価系の専門家などはこの辺りを熟知されているのでしょうが,単純に化合物とIC50値のデータだけを見せられたら,評価系の中身に詳しくない人はミスリードしてしまう可能性が高いです

創薬の現場で考えると,プロジェクトの最初のヒットやシード探索の段階では,化合物のIC50値はキナーゼ濃度よりもはるかに高いことが通常なので問題ないですがリードや臨床近い化合物の活性は,このAssay Wallを下回る可能性が十分にあります.

表面のIC50値などだけではなく,そのIC50値はどの評価系で算出された値なのか,その評価系は妥当なのか,考えるいい機会になりました.